日本臨床整形外科学会のシンポジム「あはき受領委任制度の影響」が11月11日に東京都内で開催された。現在は柔道整復でのみ認められている療養費の受領委任制度が2019年から「あん摩、マッサージ指圧、はり・きゅう」(あはき)にも導入されることについて、活発な議論が行われた。健康保険組合連合会理事で、本件の厚生労働省検討会に参加している幸野庄司氏は「施術者側はすごい政治力を持っている団体。『見えない影』があった」と打ち明けた一方で、「反対していた受領委任導入は決まってしまったが、不正対策では結構進んだ。あはきの対策が柔整にもつながる」と説明した(あはき受領委任制度については『あはき療養費も受領委任制へ、社保審医療保険部会で報告』を参照)。
あはきでも2019年に、現在の代理受領から、受領委任制度を導入することが決まった。幸野氏は社会保障審議会医療保険部会柔道整復療養費検討専門委員会、あはき検討委員会で構成員を務めている。基調講演では「療養費受領委任に対する保険者の対応について」と題して、厚労省の検討会での議論の経過や決まったことについて説明した。
委員会の様子については「独特の雰囲気があり、ある意味、中医協よりもきつい。中医協はエビデンスがあるが、柔整・あはきはほとんどなく、エビデンスに基づかない理屈のやり合い。話がかみ合わず、何度も同じ議論が繰り返される。1回のために3、4回の事前調整があり、(委員会を)開くときにはヘロヘロになる」と明かした。
あはき療養費の議論が本格化したのは2016年度から。議論の過程を説明する中で、「見えない影」があったと振り返った。議論が始まった当初は「支払側は一致団結して(受領委任導入に)反対してきたが、2017年1月ごろから潮目が変わったという。国保、後期高齢者広域連合が欠席するなどし、審議官クラスがかなり力を持って動いた」。同年3月には健保連、協会けんぽが最後まで反対する中で、「徹底した『不正対策』の実施を前提に受領委任制度の導入」が「強行決定」したと説明。「国がやると決めたことは、どんなことをしてでもやってくる」と述べた。
合意内容については、受領委任払いを導入するかどうかを「保険者の裁量によること」となった。幸野氏は「死守した」と説明し、健保連では「償還払い」を推奨している。広島県内の7組合があはき療養費で代理受領の取り扱いをやめて償還払いにしたことで、申請件数・給付費がともに大幅に減ったことなどを挙げて、「給付の適正化促進に最も効果がある」と述べた。
不正対策では、新たに導入が決まった「医師の再同意の文書化」について解説。これまでは3カ月ごとの口頭同意が可能だったが、改正後は6カ月ごとに主治医が診察をした上で「同意書」を作ることが義務化された。「保険者の判断のよりどころは医師の同意書。ここをきっちりと書いていただくことは大きい」として、医師の同意の重要性を指摘した。
過去の不適切事例として、若い男性が不妊症センターの婦人科医師から「頸肩腕症候群」の疾病名ではり・きゅうの同意を得ていた事例などを紹介した。新たに導入された施術者側が発行する「施術報告書」は当面は任意となっているが、医師の側から報告書を求めるよう働きかけを求めた。
一方で、同時に議論していた柔道整復の不正対策には「ストレスの残る終わり方だった」と振り返った。過去ずっと問題とされていた「亜急性の外傷」という文言は削除されるに至ったが、その過程では前厚労省保険局医療課保険医療企画調査室長の矢田貝泰之氏(現:社会・援護局保護課長)が「10通りぐらい案を持ってきたが、どれも亜急性が入っていた。ある日、『なんとか外れました』と報告があった。非常に頑張ってくれた」と述べた。矢田貝氏に対しては「土日でも施術所に行くなど非常に頑張ってくれて感謝している」と労をねぎらった。一方で、「療養費の支給対象の範囲に変更はない」としている点には不満を漏らした。
最後のシンポジウムでは自治体や保険者の担当者が議論した。自治体職員によると、極端に同意書が多い医師について調査したところ、「内科の先生が、施術所から1件引き受けたら、毎日のように患者を送り込まれるようになった」と説明されたり、施術所内で医師の名前と判子をついてある白紙の同意書が大量に見付かるなど、施設とぐるになっている事例があったとし、医師の適正な同意書作成を呼びかけた。